渥美半島 角上楼

愛知 渥美半島 角上楼
お部屋 本館 萩

 

帳場でチェックインの手続きをしながらご主人が煮た丹波の黒豆と地元の玉子と牛乳でつくる和製ブランデーケーキ「福口味」を頂く。

 

素足に松の一枚板の感触を確かめながら回廊を歩く。窓から見下ろすと庭園が見える。初夏にはホタルが楽しめるそうだ。

 

こちらは新館のパブリックスペース。本館と新館、そして庭園も含め、全体として”角上楼”になることを何より大事にしたそうだ。

 


古い建物なのでしょうが、古めかしく感じさせないセンスがいいですね。不便を感じないように水周りにもしっかり手が入っています。写真の部屋は障子を空けるとテラスに半露天風呂が待っています。

 

煮タコとアワビの串、イカと筍のミルフィーユ?サヨリの握り、サザエのみぞれ和え焼き・・・。前菜から盛り付けも美しく、一口食べて丁寧な味つけが伺える。まずはご挨拶ばかりに”と私の食欲に小さなジャブをこつこつと打ってきます。

 

造りはヒラメ、サザエ、車海老、サワラ、サヨリ。自分ですりおろしたワサビ醤油でもいいし、能登の塩でもいい。私的には、ヒラメ、サザエ、車海老はワサビ醤油が旨く、サワラとサヨリは塩が、その繊細な味を引き立てるように感じた。

 

鯛しゃぶです。この出汁がおいしんですよ。細く刻まれた野菜も程よく絡みます。渥美半島って野菜も美味しいところなのですね。

 

こちらは女湯です。このほかに本館には檜の貸切風呂が3箇所ある。

 

宿泊客のアイドル猫”タン”が館内バー「タンズバー」でワガモノガオに寝そべってます。床暖房なので気持ちよさそう。

 

百五十年前に建てたれた土蔵を改築した日本酒バー「和久楽」

 

 

それはもう「渥美半島の奇跡」と言ってしまいたいくらいです。 「年間で5人の宿泊客」伝説。ご主人が宿を継いだばかりの頃の話。“月間”でもなければ“5組”でもない。まぎれもなく、365日でたった5人だったらしい。豊川インター付近のトラックの多さに辟易しながら伊良湖岬方面に車を向けると、だんだんと青空は広くなり、すれ違うのは先ほどとはうって変わって農作業の白い軽トラばかり。低い瓦屋根の古い建物がぽつりぽつり。あぁ、なんて懐かしくってのどかなんでしょう。温暖な気候のせいでしょうか、なにか沖縄の田舎道を走っている気分。 目だった観光地でもなければ、温泉地でもないし、この地に来る理由がさほどない。なのにわざわざ渥美半島に、気楽な旅へと向かわせる宿がある。 渥美半島の福江地区はもと花街。たぶん自動車などなかった頃に町の形ができたのでしょう。心細くなるような細い道を入ると、そこは惰眠をむさぼっているかのような静かな町。 細道のさらに奥に潜む角上楼がお目当ての宿。創業は昭和元年。地元の宮大工の手により、地松の大木や欅や松、檜などの銘木をふんだんに使い建てられたそうだ。モクレン、オオデマリ、モミジ、サンショウ、ジュンベリー、ボダイジュなどなどが生い茂る奥の庭園の先には平成になってから建てられた棟が2棟立つ。素足に松の一枚板の感触を確かめながら、どことなく洒落た雰囲気を最初に感じたのは帳場に入ったとき。薄明かりのなか、格子窓から入る光が優美な椅子のシルエットを映し出す。角上楼といえば、宿好きならば一度は泊まってみたいと思う宿だ。特にふぐ料理の宿として有名だ。「はなから宿を継ぐ気なんてさらさらなかった」くせに、学生時代から趣味は宿に泊まり歩くことだったご主人。「年間で5人」という現実に「もう取り壊すしかない」とも思ったそうだが、「この旅館本当にだめなんだろうか?」と思い直しふすまを張替え畳を変えて、廊下を重曹で磨き、米ぬかでつやを出すこと半年・・。その人が宿を継いでからの舵取りは明快でシンプルだ。「一流ではなく、いい宿を」、「自分が客として泊まったときに望むことを、できる限りやる」です。なので「地の食材のみを使った綺麗なだけでなく美味しい食事」「朝寝坊のできる」というところは特にこだわりたかったとこなのでしょう。宿のプロではなかった分、頼れるのはお客様からのアンケート。それに実直に耳を傾け、できることはできる限りリクエストに応えていった。 だからだろうか。 浴衣の生地がしっかりしていたり、朝刊はもちろん夕刊まで。 風呂上りには一口ビール。マットレスの寝心地、寝具の肌触りが心地よく朝寝坊をさそう。 気にしなければ気づかないほどのことが、気づかないうちにこの宿の居心地を快適にしてくれる。うれしいのは朝食が9:00でもOKなのだ。ぐっすり眠れた朝は気分がいい。朝飯も旨い。なんだか色々なことがいいほうに回転し始める。おや、洗車されてるじゃないか!ってな具合に。

とはいってもこの宿は料理を食べないことには始まりません。地物の食材使い、ご主人自ら料理場を仕切る。トラフグが年中食べられるという大きな強みだけじゃなく、春ならタイにアワビ、夏は岩牡蠣、秋は伊勢海老など海の食材には事欠かない。パンフレットに記された地元食材の能書き。主人(=料理人)のそれらへのほれ込み具合がひしひしと伝わってくる。 前菜から盛り付けも美しく、一口食べて丁寧な味つけが伺える。 食事どころは庭越しに建物を見れる位置にあるが、食事をしていると、だんだん日が落ちてきて、灯篭に火が灯るがごとく、館内の明かりが建物になまめかしい色香をあたえる。 平ら貝をどうやって食べるかというと、網焼きだ。甘みも値段もホタテ以上なのだそうだ。刺身で食べられるほど新鮮なものを良くぞ思い切った。貝に醤油出汁をつけてし網焼きすると部屋には香ばしい匂いが立ち込める。これはいい。風味のしっかりした海苔を巻いてアツアツを口に迎え入れると、ふぐを思わせる淡白な旨みがのりの風味と重なる。これはいける。筍の煮物は筍の率直な甘み、かすいかに漂う春の苦味、これを旨い出汁が上手にまとめる。カサゴの姿揚げはから揚げ。頭からがぶり。ポン酢は自家製とおもわれるポン酢とも相性が抜群だ。 すべて渥美半島で獲れた物だという。海のものを使ったものばかりで、肉類は出なかったが、単調になることなく変化を楽しめた。主は「田舎料理ですが」と言うが、全国から高い食材を集めなくてもこんなに旨い料理が出せるものかと、驚くばかり。すっかりいい気分になりました。 次回は“天然とらふぐの白子”とやらにトライしたい。華やかな頃の匂いが、どこかに隠れていて、日が沈むとそれが少しずつ香り始めてくる。ジャズが大人な空気を漂わす。ああなんてなまめかしい空間なんでしょう。この宿、実は大人の時間に向けていろいろなもののチューニングが合いだすらしい。食後には庭園を見下ろす2階の回廊の椅子に陣取り、この宿の雰囲気にどっぷり浸かる。洒落ているのに、やがて我が家にいるようなくつろぎが訪れるから不思議だ。飲めない私も雰囲気に酔って、ふらふらと蔵のショットバーへ。朝寝坊を決め込む夜更けであった。

今、あの宿を思い出している5月の終わりごろ、あの庭に蛍が舞い始める頃かもしれません。

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One Comment

  1. 週刊文春に | 温泉タビエル

    […] とあるフードライターが「ニューいらご」を嗅ぎつけて覆面取材をしたそうだ。うれしー! 僕が知る渥美半島のうまい宿と言えば、一軒は角上楼。ここは有名ですね。んで、もう一軒がこの「ニューいらご」なのだ。 […]

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