伊東富戸温泉 花の雲

静岡 伊東富戸温泉 花の雲
お部屋 本館 紅紫

 

 

別荘気分の隠れ宿

 

土壁の隠れ家

伊豆高原の静かな別荘地。まさかと思うくらいの細い、木々に覆われた道を入る。それらしい小洒落た和の佇まいの建物の前を通ったが、看板らしきものは何もない。手元にある写真と照らし合わせて、やっとここが目当ての宿だと分かった。

 

まさに、“隠れ宿”。都会で本当に美味しい店を探すなら、裏通りの、さらに看板の上がっていない店を、と聞いたことがあるが、宿屋でそういうのは初めてお目にかかった。

扉を開けると、間接照明のおぼろな灯りのもと、ワラを練りこんだ土壁に三和土、そしてアンティークの家具。BARのごとく大人度が高い。

香が焚かれているのに気づいたが、今までかいだことない香り。バリの香なのだそうだ。

 

 

 

 

ただ時間を戯れる

5室あるすべての部屋のテラスには、部屋ごとに土・石・檜で造られた趣の異なる専用の露天風呂が備わる。もちろん温泉が湯船を満たす。客室は10畳+露天風呂のオープンテラス。むやみに部屋を広くする道を選ばず、踏み込みをつくって部屋にはいる行為自体に面白みをもたせる。梁を表に出して吹き抜けているので体感は10畳以上。二人連れにとってはこの広さが、親密感を感じるのにちょうどいい。

 

さっそく部屋の露天風呂を試してみることにした。
檜の湯船の周りを土壁のように土でかため、その奥行きのある質感が五感を撫でる。風呂だけでなく床にもそのテイストが引き継がれ、興ざめさせないこの宿の志が好きだ。
連れと二人、この湯に飽きるほど身を沈め、火照った体をしゃれたチェアーにもたれかけると目の前には木立。檜、クヌギ、ヤマモモ、楠木…それらを透かして、海の青が覗く。これは極上の時間だ。

 

この宿にが旅館となにか違う雰囲気を醸しているのはなぜだろうか。客が集う広いロビーもなければ売店もない。プライベートを重視し“篭る”ことに徹したつくり。何をするでもなく、ただ時間と戯れる。過剰なサービスがない分、自分の別荘のような気がしてきた。

 

 

じっくり手間をかけた和の料理

夕餉は、1階の個室で頂く。前菜はお盆の上に初夏の清流を映した見事な創作。

 

 

生粋の和の料理かと思っていたら、膳が進むにつれて、それをだんだん壊していって、ブイヤベース、さらにはアジアンテイストも加わってくる。器もどことなくアジアンチック。

2色のスープが入った鍋、一方は伊勢海老のみそをピリカラに仕立て、もう一方は魚介類の出汁がよく出たブイヤベースだ。これに伊勢海老、ムール貝、サザエなどの伊豆の幸をたっぷり注いで、味比べ。どっちのスープがどうだとあれやこれや言いながらの夕餉は楽しい。

 

伊勢海老春巻きは、生春巻きで包み揚げ。ヨーグルトにつけて食べる。はじめは外側のヨーグルトの爽やかな甘みとハーブの香り、それがひく頃、余韻のあたりですべての食材がハーモニーを見せる。

ただ根底に流れるは、出汁をとるのにじっくり手間をかけた和の料理。

 

貸切風呂

 

別荘気分の隠れ宿

その人はサラリーマン勤めにピリオドを打ち、10年間思い続けた念願の宿をオープンさせた。もともと旅行が好きで、小さい宿が好きな宿のオーナーはまだ若く、だからとらわれない宿づくりが粋だ。

宿としてのグレードは高くとも、一番芯の部分で、大事にしたかったのは、家庭的、さらには民宿の居心地のよさだという。そう考えたときに、5室が限度だと思ったそうだ。

隠れ宿を謳った宿は、最近増えてる。でも、ここまで自分の別荘気分に浸れる宿をほかに知らない。それは大きすぎない宿の規模、木々を眺め、風を感じ、湯と戯れ、ただそれだけ。

ただそれだけをするために、わざわざこの宿を目指したい。[clear]

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