横谷峡温泉 たてしな藍

 

 

風にゆれる藍染の暖簾をくぐり、玄関までは飛石をつたい、湧き出して来るような緑の間を少し歩く。創業当時から変わらないこのアプローチが、たてしな藍の命。できるだけ自然のままにしてある山野草を愛でながらゆっくり登っていく。

 

 

草木は一見生えるに任せているようで、咲く花がリレーして、季節ごとに主役が入れ替わっていく。しかも人間の手が入っていることを意識させないくらい自然に――。

 

 

 

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たてしな藍のもう一つの命は山の恵の懐石料理。蓼科の自然が盛り込まれるとのことで訪れたときは山菜が旬でと高原野菜がさきがけであった。前菜を食べただけで喜びが込あげる。伊万里焼きなどの器もいい。

 

月替わりの料理の中、黒豚角煮だけは毎月出る人気の一品。上にのるものが季節で変わる。今月は新じゃがムースにきざんだ新じゃがの素揚げ。大きめなのに箸でふわりと分けれる。やさしい。果てしないやさしく奥深い味。胃は激しく活動し、鼓動は高鳴り、口からは吐息が漏れる。

 

杉の葉に乗せられ清流をイメージした演出で登場。いや、むしろ驚いたのはその味。火の通り具合が断然素晴らしく、蒸し焼きしたかのように淡白な身がしっとりと潤いを蓄えている。焼き方でこんなに味が違うのかと唖然とした。

 

夕餉の余韻に浸りながら、予約しておいた貸切風呂(有料)へ向かう。脱衣所にはアジアンテイストのチェアーが置かれ、風呂場とを仕切るガラス戸を開け放つと、広々としたテラス付きの露天風呂となる仕掛け。寝湯のできる岩に寝そべりライトアップされた庭園をしばし眺める。

 

藍染の宿らしく座布団や寝具も藍染のものが使われている。手作りだそうだ。翌朝はTVをつけずに静けさを楽しんだ。白樺、カエデなど壁一面の窓に映るは庭の色香。

 

半露天となる檜風呂で朝風呂。木漏れ日が湯面にモザイクを作りきらきら揺れる。湯の香に浸りながらこの時間がずっと続いて欲しいと願う。凛とした空気を一息、腹いっぱいに吸い込むと、全身に活力がみなぎってくる。

 

このクラスの宿のなると、朝食も美味しくて当たり前と言われてしまうが、それでもあえて旨いといいたい。特質すべきは朝粥。するすると喉を落ちていく。朝食の後はご主人が抹茶を点ててくれる。

 

 

緑がかぶさる様に生い茂る静かな別荘地、やがて「たてしな藍」の字が目に入る。野鳥の声が木々の間を抜ける。知る人ぞ知る美食の宿を求めて、たどり着いた和の佇まい。 風にゆれる藍染の暖簾をくぐり、玄関までは飛石をつたい、湧き出して来るような緑の間を少し歩く。 しっとりと風情ある玄関を入ると、そこにフロントは無く簡素な畳のスペース。窓からの陽光を受けた生花だけが客を向かえる。もてなしのあるつくりだ。実のところ、訪れた当初はそこの玄関に関して別段印象を持っていなかったのだが、家に帰ってから”いい玄関だなぁ”とジワジワ感じてきたのは、日本建築の奥深さだろうか。 露天風呂につかっていたら、初老の男性が話しかけてくれた。「いい木ですねぇ」それは淡い黄色の山つつじだった。「この花が終わる頃には、きっと別のやつがこの露天を彩るのでしょうね。」ときいて、それまで全然意識していなかったのだが、この露天風呂の草木は一見生えるに任せているようで、咲く花がリレーして、季節ごとに主役が入れ替わっていく。しかも人間の手が入っていることを意識させないくらい自然に――。この粋人と話が弾む。やはり小さな和の宿が好きという。宿談義に花が咲き「この宿には心がある」「もてなしがいい」ということで意見が一致。大いに盛り上がる。 その後、このおじさんとは宿の料理について感想を言い合ったり、とても楽しい滞在となった。最近は”隠れ宿”というキーワードがあるように、外界から遮断されているのは勿論のこと、客同士、スタッフとの接触も極力減らすスタイルが流行になっている。私とて見知らぬ人との接触は煩わしく感じる方だが、たてしな藍にある安堵感があのような出会いを生んだと思っている。そう、人が迎えてくれる宿なのだ。おもてなしなんて言葉、簡単に使いたくない。でもここは、心通う丁寧な接客、本当の心配り、1ランク上の上質な時間を過ごした。お客さんを迎えるのがもともと好きで、この別荘地に宿をはじめたのがかれこれ20年前。客室数は当時から比べれば少し増えたものの、小さな宿ならではの”みんなでつくりあげていく”気持ちは変わらない。 空気のおいしさを実感できるところ。道端の野花に足を止める、そんな心のゆとりをここで取り戻せそうだ。

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